今はもう、クリスは病院のベッドに寝かされていた。治療室のような場所に連れてい
かれ、色々と検査をしていたみたいだったが、特に大きな怪我はしていないらしい。右
耳の鼓膜がどうとか、お医者様が話しているのが聞こえたけど、それよりもまず、クリ
スが大丈夫だという事実に安心しきっていた。
 それからというもの、私はなるべく、自分の身体がどうなったとか、そんなことだけ
は考えないようにしていた。

 クリスの側で、そうして意味があるのかないのかわからない時間を過ごしていると、
勢いよく病室のドアが開かれた。

「クリス!」

 トルタが、私達のお父さんやお母さんと、クリスの両親と一緒に部屋へと入ってくる
ところだった。
 ここが病院だということも忘れているのか、誰よりも早く駆け寄り、その手に触れた。
それは、私が今一番望んでいたことで、その存在すらも定かではない今の状態では、絶
対にできないことでもあった。
 そして――胸がどうしようもなく痛んだ。

「安静にしてれば大丈夫だって、お医者様も言ってただろう?」

 クリスのお父さんが、咎めるでもなく、優しくそう言った。トルタは、大きく息を吐
き出して、それから頷いた。そして、私が今、一番知りたくない質問を口にする。

「……ねえ、それでアルは?」

 さっきまでの激情は冷めたのか、トルタは小さな声でそう言った。今度は私のお父さ
んが答えた。

「まだ……わからない。ただ、頭を強く打っていて……」
「どこ?」

 首を傾げ、トルタはもう一度訊ねた。幼い子どものような、無邪気に聞こえる声だっ
た。

「ねえ、どこなの?」
「……まだ、治療室にいる」
「だからそれはどこだって聞いてるの!」
「トルタ……それを聞いて、どうするの?」

 お母さんが、ここに来てから初めて口を開いた。

「会いに行くのよ」

 さも、当然のことだと言わんばかりに、トルタは答える。さっき大きな声で叫んだとき
の感情は、今ではなりを潜めている。 「……まだ無理よ。あなたはここにいなさい」 「ここにいたって、どうにもならないじゃない」  そして、今度は吐き捨てるように。  トルタの中で様々な感情が入れ替わり、そのどれが真実なのかはわからなかった。 「アルのとこに行ったって、どうにもならないわ」 「でも! ……でも、だって……」  そして、トルタは最後に泣いた。それが、彼女の中の一番強い感情だったのは、私に はわかった。

 

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